記者会見
宮崎・早野論文に関する英文査読付き論文の内容について
2023年3月8日
放射線被ばくに関する論文撤回の経緯をまとめた論文が公開されました
――政策による科学のゆがみ・研究不正に関するシンポジウムを開催予定――
放射線被ばくに関する論文撤回を巡る経緯をまとめた英文査読論文「”The mishandling of scientifically flawed articles about radiation exposure, retracted for ethical reasons, impedes understanding of the scientific issues pointed out by Letters to the Editor”(倫理的理由で撤回された、放射線被ばくに関する科学的欠陥のある論文の不適切な扱いは、レターが指摘した科学的問題点の共有を阻害する)」が昨年末に採択・公開され、この度日本語訳も公開しました。
この論文の対象となった「倫理的な理由で撤回された論文(以下、原論文と称します)」は、福島県伊達市の全市民を対象に収集された個人被ばく量と、航空機から測定した空間線量率を関連付けたものです。日本政府は空間線量率×0.6として被ばく量の予測を行ってきましたが、原論文はこの値が0.15程度であるとしていました。それが本当であれば、予測される被ばく量も4分の1程度となり、避難や除染する区域を大きく減少させることが可能です。
我々は原論文の科学的、倫理的な問題点(不自然なデータの分布、伊達市から提供されていない期間のデータがプロットされていること、0.15が過小評価であることなど)を4つのレターとして投稿し、採択もしくは、暫定的採択されました。しかし、原論文を掲載し、レターを(暫定的)受理した学会誌(英国放射線防護協会の学会誌)は、これらのレターを掲載せず、研究不同意者のデータを利用した「研究倫理違反」のみを問題として、原論文を撤回しました。
このため、原論文は科学的には問題がないかのように扱われ、「場の線量から個人線量」「(科学者と市民の)共同専門知」という放射線防護政策にも影響を与え続けています。原論文が伊達市長の依頼で執筆されたこと、原著者は論文公開前に、分析結果を原子力規制委員長に送り、その前後で論文の結論が変わったことも明らかになっており、MH論文は「エビデンスに基づいた政策決定(EBPM)」ではなく「政策のためのエビデンスづくり(PBEM)」のために書かれた可能性があります。
公開された論文は、これら一連の経緯と政策との関係についても明らかにしています。このように、本論文が取り扱うテーマは、科学や政策にかかわる重大な問題であるため、この論文を手がかりとして、4月以降、政策による科学のゆがみ・研究不正に関するシンポジウムを開催予定です。
公開された論文の概要、科学のゆがみ・研究不正、特に放射線防護政策における位置づけ、シンポジウムの概要説明のための記者発表を3月8日に行いますので、ご参集下さい。
1.公開された論文
著者 谷本溶(ローマ大学トル・ヴェルガータ数学科)
濱岡豊(慶應義塾大学商学部)
影浦峡(東京大学大学院教育学研究科)
黒川眞一(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)
牧野淳一郎(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)
押川正毅(東京大学物性研究所)
”The mishandling of scientifically flawed articles about radiation exposure, retracted for ethical reasons, impedes understanding of the scientific issues pointed out by Letters to the Editor”, The Journal of Scientific Practice and Integrity, 「倫理的理由で撤回された、放射線被ばくに関する科学的欠陥のある論文の不適切な扱いは、レターが指摘した科学的問題点の共有を阻害する」 https://doi.org/10.35122/001c.38474 (日本語訳も下記4.のサイトから公開)
2.研究倫理を問題として撤回された論文
著者(執筆時所属)は宮崎真氏(福島県立医大)、早野龍五氏(東京大学)
Miyazaki M, Hayano R. Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys. J Radiol Protec. 2016;37(1):1-12. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/37/1/1
Miyazaki M, Hayano R. Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose. J Radiol Protec. 2017;37(3):623-634. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/aa6094
3. 政策による科学のゆがみ・研究不正に関するシンポジウム
(4月16日オンライン開催予定。開催時間調整中)
・研究不正とその類型、防止策
・「倫理的な理由で撤回された」宮崎早野論文再訪
科学的な問題点/倫理的な問題点
・政策による科学のゆがみ
市民から見た問題点/放射線防護への影響
・政策による科学のゆがみを許さないために
4.記者発表日時
2023年3月8日(水曜日) 15:00から1時間程度。ZOOMによるオンライン開催。
参加ご希望の方は下記のサイトからお申し込みください。
http://news.fbc.keio.ac.jp/~hamaoka/
(慶應義塾大学商学部・濱岡のホームページです。ホームページ上部の「放射線被ばくを巡る研究不正・科学と政策について」をクリックしてください。)
・発表者および内容
上記メンバーで論文の概要、科学と政策における位置づけ、シンポジウムの概要、今後の活動方向について説明し、質疑応答の時間を設けます。